jeudi 4 août 2011

磯江毅=グスタボ・イソエに科学者の精神を見る



先日、久しぶりに見た昔のお好み番組 NHK の 「日曜美術館」 でこの画家を知る。やっとその気分になったので出掛ける。駅を降りると雨が降り始めたが、パリ生活の影響か全く慌てない。気持ち良く雨に当たる。

館内のお客さんは多くはないが、少なくもない。丁度良い緊張感が保たれる空気の中、スペインで鍛えられたリアリズムの世界に浸る。彼は対象を極限まで見詰め、その本質に迫ろうとしたという。虚心で対象と長い時間を共にした後、一体どのような世界が開けたのだろうか。彼の言う本質とは、物の中にある内なる力、自然の摂理であり、それを引き出すことが彼の人生だった。その結果、物が体現してきた時間までも表現できたという。

対象を見えたまま克明に描いた後、物と空間の中から摂理を見出すという彼の営み。これは科学者が自然を直接あるいはある条件のもとに観察し、その結果の中から規則性や法則性を抽出しようとする営みと完全に重なる。科学を対象とした哲学についてもそのまま当て嵌まる。彼の作品と言葉に触れながら、前段の観察や資料の収集に邪心が入ると本質に至ることはできないことを改めて確認していた。

以前であれば、海外で人生を終えた人にどこか哀れを感じたものだが、今ではそういう感慨は沸いてこなくなっている。場所はどこであれ、その人間の持つ内なる欲求を十全に活かす環境で日常を送り、そして仕事をやり遂げた人生であればどこに哀れを催す理由があるだろうか。




「鰯」 (部分)

(展覧会ホームページより)

磯江毅 (いそえつよし、1954-2007) は大阪に生まれ、大阪市立工芸高等学校を卒業後まもなく単身でスペインに渡り、30年余りの長きにわたる滞西の間に油彩による写実絵画を探求しました。やがてアントニオ・ロペス・ガルシア (1936‐)に代表されるマドリード・リアリズムの俊英画家グスタボ・イソエとして認められ、国内外で高い評価を受けました。

彼のリアリズム表現は、文字通り事物の細部まで深く入り込んで具象的に描ききるだけでなく、現実世界が内包する神秘的なものまで捉えようとしているような精神の深まりを感じさせます。その根底には生死をかかえこむ生きものへの深い洞察と諦観が見て取れるのです。

2005年には広島市立大学芸術学部の教授に就任し、日本での活躍が期待されましたが、2007年惜しくも53歳で急逝。生涯をかけた絵による存在探求の試みは、絵画の高みを示すものとして、死後もなお輝きを発し続けています。

本展は、現代写実絵画に鮮烈な痕跡を残した磯江毅の本格的な回顧展として、磯江の初期から絶作までの代表作約80点を一堂に集め、彼の芸術の軌跡をたどるとともに、その稀有な画業を追想するものです。


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