lundi 9 janvier 2012

ユングの 「赤の書」 'Le Livre Rouge' de Carl Jung



ルクセンブルグから帰るTGVの中で読んでいた雑誌の記事を昨日読み返してみた。先日取り上げたカール・ユングさん(Carl Jung, 1875-1961)の映画 A Dangerous Method のカナダ人監督デヴィッド・クローネンバーグさん (David Cronenberg, 1943-) のインタビューである。

その中で、この映画のもう一つの要素として、台詞としても語られていたが、人種の問題があることがわかる。フロイトはユダヤ人だが、ユングは言ってみればアーリア人。当時のオーストリア・ハンガリー帝国ではユダヤ人が虐げられるということは少なかったようだが、かと言って社会の中心を占めるということもなかった。フロイトがユングを取り込もうとした背景には、自らの精神分析が社会的認知を受ける上で助けになるのではないかという思いもあったとみている。ユダヤ人で無神論者のクローネンバーグさんは、ユングよりはフロイトの立場にシンパシーを感じているようだ。


当日は気付かなかったが、この記事でユングさんの赤い本が囲みで小さく紹介されている。1914年から1930年にかけて書かれた彼の 「内なる大聖堂」 (cathédrale intérieure)である。1961年から厳重に保管されていたが、2年前にアメリカで出版され、フランスでもやっと訳されたところである。日本ではフランスより1年早く出ているが、何せ格段にお高い。この本の内容解説を読むだけで、前回触れたフロイトとの対比が明らかになる。

Amazon.com (The Red Book: Liber Novus, 2009; $112.21)
Amazon.co.jp (The Red Book, 2009; 15,693円)
Amazon.fr (Le Livre Rouge, 2011; Euro188,10)
創元社のサイト (「赤の書」、2010; 42,000円)










これも前回触れたが、精神分析を科学的な観察と治療に止めようとするフロイトの立場も、科学を超えて神秘主義にも興味を持ちながら、患者の生を十全に発揮させようとするユングの立場もよく理解できる。しかし、自らの性向を振り返ると、ユンギアンの要素を否定できそうにない。より正確には、理性(科学的な思考)を徹底した上で、神秘の世界にも目を閉じないでいたいと思っているのではないだろうか。それが存在すると感じた時には科学で説明できないからと言って捨て去るのではなく、その先に行ってみたいと思っているようだ。そこにこの世界の豊かさが隠れているようにも見える。このような世界の観方は、科学主義に染まってしまうとなかなか採れないはずのものである。

昨年はユングが亡くなって50年目の年であった。



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