朝起きるとデルフトは雨
降り止みそうでもないのでライデンまで足を伸ばすことにした
往復で9.50ユーロ
少し時間がかかるのではないかと想像する
アムステルダム行の電車はほぼ満席
やっと見つけたところは、出口近くの一角で3人が座っていた
すぐ横が一等だったので確かめると、こんな答えが返ってきた
一等ではないと思いますよ、ただ私たちは一等ですが
声の大きいアメリカ人らしい人が横になったおそらく地元の人と話している
こちらにも何を読んでいるのかと聞いてくる
スピノザに関するものだと言うと、いろいろ話しかけてきた
後でわかったことだが、彼はキリスト教の伝道師のようであった
スピノザの唱える神と自然が同じものなどという考えは、当然のことながら受け入れられない
彼の考えでは、宗教は信じるかどうかが問題
何かをしなければ天国に行けませんと説くのは本物ではないという
みなさん、彼の説教を聞いていた
長い旅かと思ったが、30分もしないうちにライデンに着いたのではないだろうか
話の中で、ミッションということについて考えていた
こちらに来てから使命感とでも言うべきものが生まれてきている
今までにはなかったことである
それは、存在そのものの意味について考えることと結びついている
なぜ存在しているのか、ということである
それを突き詰めるにはよい環境にいるのではないか
そう彼の話を聞きながら考えていた
今日の目的は、ラインスブルフ (Rijnsburg) にあるスピノザ・ハウス (Spinozahuis) を訪ねること
駅を降り、インフォメーションセンターで交通案内を聞いてから街に出た
オランダと聞くと私の中では運河だが、ライデンも例外ではない
それが心を鎮めてくれる
町が近く感じられる
1時間ほど歩き、カフェでデジュネを取ってからスピノザ・ハウスに向かった
バスは駅前から出た
4ユーロとのことで、何となく遠くにあると想像していた
そのため行路の後半から駅名を確かめていたが、いつまで経っても目的の Spinozalaan が現れない
そして運転手の終点ですよ、の声が聞こえる
北海に面したカットワイク (Katwijk)まで行ったのである
誤りは豊穣の母
2008年年末のオステンド以来、久しぶりに北海を眺めることができた
どうしようかと考えようとした時、そこまで連れて行きますよ、そのまま乗って、と運転手が言ってくれる
まさに迷える者に手を差し伸べていただいた感じだ
感謝の挨拶をしてからバスを降りた
バス停の名前が Spinozalaan となっているので、その道がそうかと思っていたがそこにはそれらしい建物がない
しばらく歩き回り、3人目の人が "You are on the right track." と言ってくれる
Spinozalaan 29, Rijnsburg
静かな住宅地にその家はあった
入口が閉まっている
ノックしてしばらくすると、扉を開ける音が聞こえた
上と下が別々になっている
人があまり来ないので、普段は閉めているの、
下を開けるのが大変なの、と言いながら開けてくれたのが管理をされているトニー・ティンバーゲンさん
Mme. Tonny Timbergen
彼女のお話を聞きながら、スピノザさんが1661年から1663年まで借りていた部屋のある家の中を歩く
急な階段を上った2階にも展示品とビデオがあるが、オランダ語がほとんどなので眺めるだけ
スピノザのファンであったアインシュタインさんがここを訪問したという記帳があった
1920年11月2日のことである
中のものは著作権があるので公開できないが、トニーさんはそこから除外していただいた
オランダでの哲学の受け止め方を聞いてみた
彼女によると小学校から哲学を教えられたという
彼女も教えに行ったことがあるが人数は少なかったとのこと
哲学は贅沢品なの、というのが彼女の言葉であった
生活に必要なものが揃った後にそこに向かうという意味なのだろうか
この訪問から広がるものについては、いずれ書いてみたい
ライデンと聞くとどこか懐かしい気分がしていた
それがなぜなのか、こちらに来てはっきりした
研究を始めた時の領域の研究者にライデン大学の方がいたからである
HLA研究のパイオニアであるファン・ルート(J.J. van Rood, 1926-)教授である
何とラインスブルフからライデンに戻ると駅裏に着き、そこにライデン大学の病院があるではないか
本当にどうしてこうもタイミングよく現れてくれるのか
早速、突撃を試みた
案内の方は、名前は聞いたことがありますが、もうお辞めになってから長いのでは、と言いながら当たってくれる
今、年齢を調べてみて驚いたが、86歳である
自分のことは頭にないのだから世話が焼ける
自分のことは頭にないのだから世話が焼ける
秘書の電話もご本人の電話も鳴りっぱなしであった
確かに、現場に入ると予想もしなかったことが頭に浮かんでくる
旅の面白さの一つだろう
これは大学病院のホールの壁である
右側には電気泳動の図を掲げている
科学の結果を示すためではなく、それを芸術作品として提示している
その心は今のわたしにはよくわかるのである
ここでも何度か触れていることになる
現場を離れてから、科学の結果の映像それ自体が美しいことに気付いたからである
現場にいる時には、その図の示すメッセージが重要で、それがわかると事足りる
しかし、今では図全体をそこにあるものとして楽しむ余裕が出てきたのである
いつの頃からか、スライドを芸術作品として観るようになっている
変な手を加えて科学と芸術の融合などというのではなく、そのものが美しいということを示す
その心がわたしを悦ばせてくれる
ライデンの町を再び歩き、カフェに入ってしばらくするとそれまで曇っていた空が遂に泣き出した
やれやれと思っていると、今日初めて青空が現れてくれた
長い一日を締めくくるため、久しぶりにビールを口にした
今日はそのカフェからのアップになった
まだデルフトに戻る行路が残っている
とても魅力的な記事でした!!
RépondreSupprimerまた遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
株の買い方様
RépondreSupprimer訪問、並びにコメントありがとうございます。
改めて読み直し、ライデンでの一日を思い出した次第です。
このようなところですが、再訪いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
急なコメントをお許しください。近いうちにオランダを旅行したいと考えている者です。スピノザさんのファンとして彼のゆかりの地をいろいろ訪れたいと思っておりましたところ、この記事にたどり着きました。素晴らしい記事をありがとうございます。paul_ailleurs様が訪問されたラインスブルフのスピノザハウスに私も是非行ってみたいのですが、展示物はどういうものがあったのでしょうか。オランダ語ができないと楽しむのは難しいでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。
RépondreSupprimerコメントありがとうございます。もう記憶が定かではありませんが、スピノザハウスにはスピノザの蔵書やスビノザの像、本物ではないとは思いますが、ガラス磨きに使ったもの、関連の資料などがありました。管理をしている方がまだトニーさんであれば、英語で話ができます。ただ、オランダの皆さんは英語を流暢に話しますので、どなたになっていても問題ないのではないかと思います。素晴らしい訪問になることを願っております。
Supprimer早速お返事をいただき恐縮しております。展示物の内容を教えていただいてますますスピノザハウスに行きたくなりました。どうもありがとうございました。
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