先日、「オッカムのほうき」(Ockham's Broom) という言葉を初めて聞いた
哲学に詳しい方は 「オッカムの剃刀」 (Ockham's razor) には馴染があるはず
オッカムのウィリアム (William of Ockham, 1285-1347)が使った哲学的推論のための原則である
現代的に解釈すれば、こうなるだろうか
競合する仮説がある時には、推論がより少ない仮説を選ぶべきである
あるいは、最も単純な仮説が最も真実に近い
剃刀で贅肉を削ぎ落とすという含みがあるのだろうか
常に正しいわけではないが、よく出される考え方である
ところで、ほうきの方はどうだろうか
剃刀が14世紀ならば、こちらは現代である
哲学的科学者と言えるシドニー・ブレナー(Sydney Brenner, 1927-)さんが考えた造語とのこと
いつも興味深いことを考えている
その意味するところは、不都合な事実をカーペットの下に掃いて隠すためのほうき
その行為も含んでいるのだろう
まだ広まっていない言葉である
科学の領域で説明できない事実がある時、それを除外して論を進め、発表しようとする
そのために大切なことを見逃すこともある
このほうきは科学の領域に限らず至るところで使われているようで、厭というほど見せつけられている
偶にカーペットをひっくり返して掃除すると、重要な発見が待っているかもしれない
抗原とともに細菌などが入ったアジュバントを投与しなければ、抗体がなかなか作られないことがある
長い間そのことには目を瞑り、アジュバントを思考の外に置いて研究が進められていた
そこに、これは免疫学の "dirty little secret" だと指摘する人物が現れたのである
残念ながら脳腫瘍で若くして亡くなったチャールズ・ジェインウェイ(Charles Janeway, Jr., 1943–2003)さんである
その指摘により、進化の早い時期から存在する細胞がまず活性化しなければ免疫反応が起こらないことが明らかになった
そこにアジュバントが絡んでいたわけである
この流れはジュール・ホフマン(Jules Hoffmann, 1941-)さんらの2011年のノーベル賞に繋がることになった
真理に近づくためには、至るところにあるオッカムのほうきを一掃する必要があるかもしれない
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