今日のお昼にパリに戻った
ランスに向かう前、パリ北駅のキオスクで雑誌をいくつか手に入れた
ル・ポワンには、ヨーロッパの衰退を大きく取り上げた記事がいくつか出ていた
その中にアンドレ・グリュックスマン(André Glucksmann, 1937-)さんのインタビューがあった
久し振りに車内で読んできた
この方に関しては、かなり早い時期に取り上げている
アンドレ・グリュックスマン - NIHILISME EXTERMINATEUR (2005-07-21)
最新刊 Voltaire contre-attaque が今日から書店に並ぶという
以下に、彼の言葉を掻い摘んで書き留めておきたい
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今緊急に求められることは、ヴォルテールが高く明確に掲げたコスモポリタン的自由を救済すること
フランスでも左右の保守派から攻撃に晒され、3世紀に亘るヴォルテールの緩やかな破壊が起こっている
この流れに対して闘う意思を示す意味もあり、この本を書いた
20世紀半ばの知識人はヘーゲル、マルクス、ハイデッガーとは対照的にヴォルテールを哲学者と見做さなくなった
哲学の中で教育されなくなったが、彼こそ最も現代的な哲学者である
彼は人種、グループ、国の境界などの根ざすもの、狂信主義を拒否した点でわれわれの同時代人なのである
ヴォルテール主義者であるということは、永遠に続く「揺れ」を受け入れること
今回、『カンディード』(Candide ou l'Optimisme, 1759)を読み、ヴォルテールを救済した
カンディードはわれわれの時代の人間である
その対極にあるのが、『ザディーグ』(Zadig ou la Destinée, 1747)である
こちらは才能に溢れ、金持ちの思想家として始め、そしてそのままで終わる
一方のカンディードはどこから来て、どこに行くのかも知らない
祖国も国境もない
いろいろな出来事に耐えるのは、彼の良心だけが基礎になる
ザディーグは運命を感じ取るが、カンディードは偶然を容認する
カンディードは共同体や国家に属さない
世界に開かれたヨーロッパ人であり、世界人である
啓蒙時代の人間なのである
あらゆる場所にいると同時にどこにもいない、発見する人間なのである
旅行者として過激に、そして永遠に生き続けるのである
共同体や国に属する人間が多数派なのに対し、国境を持たない人間は例外であり、多数派になることはない
外に開かれるに従い、逆に国家の感情が生まれるのは自然だとも言える
しかし、その場合の祖国は他者に対して閉じていて、最早時代遅れになっていて、機能しない
それは、19世紀から20世紀の三分の二の時代を占めた考えだった
ヨーロッパの冒険の偉大さを見ることができないというのは、恐ろしい衰弱である
フランス人が抱える不安に、アイデンティティの消失がある
しかし、アイデンティティとは与えられ、固定されたものではない
作られるものであり、修正されるものである
フランス人のアイデンティティは、共和主義と結びついている
アイデンティティは存在したのではなく、一つの契約を新たに発明したのである
プーチンは酷いやり方で自由主義とコスモポリタニズムに抗する動きを進めている
それが西洋人の一定部分を誘惑しており、このまま行くと戦争しかないかもしれない
われわれヨーロッパ人は何を護るべきかを知らない
ヴォルテールは何をどう護るのかを知っていた
この本を書いた理由はそこにある
普遍的な言説は政治的、知的エリートが打ち上げるものではない
彼らはヨーロッパという計画の基礎を揺るがすような面倒なことに立ち向かうことをしない
フランスのエリートには、親ロシアの心情がある
西ヨーロッパに見られるように、フランスには権力と金、武力さえも愛する心情を持っている
本質において、ヒットラー主義とプーチン主義にそれほどの差はない
勿論、プーチンはヒットラーではない(少なくとも今のところ)
しかし、ヨーロッパにおける国境を描き直そうとする彼の野心は、冷戦以来の危機である
わたしを善悪二元論者とする批判もあるようだが、そうは思わない
18世紀以来、二つのロシアがある
プーシキンの考えを好んでいるという意味で、わたしは善悪二元論者ではない
この大陸にはイデオロギーの対立が消えることがない
われわれの病理は善悪二元論ではなく、明晰さを最早持ち合わせなくなっていることである
イラクやリビアの状況を見ると、われわれの価値を輸出することがうまく行かなくなっているのではないか
自由という素晴らしい考えが空から降ってくるという見方が通用しなくなっていることは確かだ
普遍的な言説は、イスラムの脅威やプーチン主義、そして明日の中国に対しては力を持たないだろう
しかし、何もしないのでは解決にならない
われわれはほとんど最初から普遍主義者で、敵対者からもそう見られている
その立場を自ら否定することは、彼らの欲望を強めるだけである
2万人とも言われるロマは生贄となっている
道端に寝、貧民窟を彷徨い、社会に同化できないでいる
その一握りが6千万のフランス人を震え上がらせているというが、それはあり得ないことだ
安全や健康の問題になるという
確かにロマの行動には問題があるが、それは根っからのフランス人についても言えることだ
寧ろ、ロマが公共の危険になるというコンセンサスができていることこそ危険である
わたしが分析しようとしているのは、このことだ
5億人のヨーロッパ人はこれまでの覇権を失っていると感じていると言うが、全体としては最も豊かである
グローバリゼーションによる恩恵も受けている
しかし、そこに新たなチャンスがあると考えるのではなく、富と安全が危機に晒される要因を見ている
そこでは、ロマは何の脅威にもならない
寧ろ、ヨーロッパがヨーロッパであることの脅威を早く処理しなければならない
ヨーロッパは親アメリカであった
エリートの祖国のために親ロシアであった
自らの力に頼る大胆さを持ち合わせなかった
その挑戦に応じることも敢えてしない
カンディードの精神をどのように21世紀の政治に甦らすのか
それは、悪や専制政治やテロリズムに立ち向かう意志
生き方、考え方として、不確実性と寛容を受け入れること
民主的な庭を耕し、その扉を開く能力
これからの問題は、誰かがEUの原理である自由と寛容を引き継がなければならないということ
左右の選択ではなく、国家主義の中に閉じ籠る誘惑を拒否するか否かの選択である
ヨーロッパが経済的にもっとしっかりしていれば、影響力もあり、聞く耳を持たれると言われる
しかし、最も豊かな大陸であるヨーロッパの弱点を強調すべきではない
ヨーロッパ人は道徳的であり、精神的なのだ
もしわれわれが動かなければ、事態は悪化するだろう
フランスでの共同体主義の高まりにより、共和主義精神、そしてヴォルテール的言説は弱まっている
ただ、弱まってはいるが、死んではいない
ヨーロッパ的共和主義は蘇るだろう
わたしのヨーロッパが文学的であり、哲学的だと言うが、文学を軽視してはいけない
モンテーニュはアンリ4世とともに宗教戦争に終止符を打った
ヴォルテールは世俗主義(ライシテ)と寛容を発明し、人権宣言への道を拓いた
ソルジェニーツィンはレーガンと同様にベルリンの壁崩壊に貢献した
今も世界に語り掛ける偉大なヨーロッパ人を挙げるとすれば、・・・・・・・・・ ヴァーツラフ・ハヴェル
そして、自由を護るために専制に立ち向かっている世界に散らばる異端の思想家たちである
(ランスのホテルの床で目が合った)
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